待っててくれる人がいらっしゃるから。それが私にとって、ちょっと生き延びるというか、死ねないというか。
介護の仕事してるの。日曜日から金曜日まで、週六、土曜日だけお休み。
私は訪問ヘルパーだから家を一件一件訪ねて、だいたい一日四件、多い日で六件とか。で入浴させたり、おむつ変えたり、全部一人でやってるの。でもまだ十数年かな、しかやってないから。主人が亡くなってからだからね、始めるのが遅かったの。
でも私はね、時間があると駄目なの。怖くなる。だって怖いよ。一人でしょ。だからね、暇があっちゃうと、嫌なこと考えちゃうの。自分が病気になったらどうなるんだろう、そこらでひっくり返ってしまったらどうなるんだろう、とかね。仕事で看る人もみんなそうだから。こういう風になったら私はどうするんだろって。ほんとに考えたら怖くて生きてられない。だからこないだもね、83歳の人とお話ししてたんだけど、その方は奥さんを亡くされて、今一人でいる方で「どうする? もっと歳取って病気にでもなったら?」って聞いたらね、「もしそうなったときは、睡眠薬を飲む」って。でその方はね、もう実はもらってるんだって。飲まないんだよ、溜めてるんだって。で私は「それでも死ねないよ。昔の睡眠薬と今のは違うから」って言ったんだけどね、その人は「それは分かってる。でももし本当に自分が寝たきりとかになるんなら、その前に睡眠薬50粒くらい持って、〇〇に行く。で飲んで眠たくなったら、〇〇に飛び込む」って。
でもね、本当に歳取ると死に場所探してるの、習慣みたいに。だから最期なんて運命だから分かんないけどね、暇になるとそんなことばっかり考えてるの。だからね、忙しくしてたほうがいいのよ。死のうと思ってるわけじゃないんだけどね。だから、やっぱり仕事でその人たちを看てるのが生きがいなのかもしれないね。だってほら、頼りにしてくれてるでしょ。「あ、今日は〇〇さんが来てくれる」って。待っててくれる人がいらっしゃるから。それが私にとって、ちょっと生き延びるというか、死ねないというか。ね、必要とされてるんじゃないかなって。
だって訪問時間になるとね、玄関開けて待ってる人だっているんだよ。「雨だから中に入っといてね」って言ってんだけどね、ちょっとでも遅いと心配してくれて。だからそういう人たちのためにはやっぱり行ってあげないと。だから続けてやってられるのかもしれないね。
やっぱり必要とされたいじゃない、独り身だし。人間やっぱり一人だから。だからそんなことでもないと、生きていけないの。主人を看てたときはほんとに何度突き落としてやろうかって思ったくらいだったんだから。認知症で訳のわからないことは言うし、歩けなくもなったし、ご飯も食べられなくなったし。全てやったの。胃瘻もやったし、経管栄養もやったし。全部莫大な金もかけて。ほんとにね、お金もかかるし、こっちも精神的におかしくなるし。ほんとに何度も、誰かに後ろから突き落とされたいって思ってたし、主人と〇〇から飛び降りたら死ねるかなって毎日考えてたんだけどね、でも結局自分からはできないんだね。勇気がないから。それに万が一生き延びた場合、すごく嫌じゃない。飛んだ後だから、どこかしら悪くなって寝たきりでしょ。そっちの方を考えちゃうから。だからころんって死ねるならいつでもいいんだけど、そのころんが難しいんだから。そんなもんなのよ人生。そうやって生きていかないといけないの。
ま、頑張ってね、これからいろんなことを学んで。嫌なこともいっぱいあると思うけど、自分が正しいと思うことからめげちゃ駄目だよ。波があるから人生は。上がったり下がったり。その波に乗っていけば絶対間違いない。うん、流れに沿っていけばね。流れにほら、無理に逆らおうとすると反発が強くなるから。もうそういうことになったときには、一緒に穏やかに行かないと。怒ったってね、自分も嫌な思いするし、相手も嫌な思いするでしょ。だからなるべく喧嘩腰にならないように、言葉遣いも。言った方も、聞いた方も後悔するから。だからぐっと我慢して、自分が折れる、自分が引く。幾つになっても変わらないからね、人間の性って言うのかな。腹立つことはそこら中にいつになってもあるから、それはどうしても変わらないから。だからそういう人が出てきたときは、もう自分が折れて、情けない人だなーと思いながらでも許してやるの。人を傷つけちゃいけないよ。自分は傷ついてもいいけど、人を傷つけちゃだめ。だから長い人生だけど、頑張るんだよ。